30代後半から、私の頭頂部は少しずつ寂しい状態になっていきました。それ以来、美容院に行くのが怖くなり、気づけばセルフカットでごまかす日々が2年以上も続いていました。鏡を見るたびに落ち込み、友人との集まりもどこか楽しめない。そんな自分を変えたくて、ある日、私は一つの決心をしました。「ちゃんとした美容院に行こう」と。私が選んだのは、自宅から少し離れた場所にある、個室を備えたプライベートサロンでした。予約サイトの備考欄に「頭頂部の薄毛が気になります。目立たない髪型を相談したいです」と書く指は、震えていました。当日、心臓をバクバクさせながらお店のドアを開けると、穏やかな笑顔の男性美容師さんが出迎えてくれました。個室に通され、二人きりになると、彼は「ご来店ありがとうございます。備考欄、拝見しました。お悩み、聞かせていただけますか?」と優しく切り出してくれたのです。その一言で、私の心の壁は一気に崩れ落ちました。私は、今まで誰にも言えなかったコンプレックスを、堰を切ったように話しました。彼は真剣な眼差しで全てを受け止め、「大丈夫ですよ。カットで印象はかなり変えられます。一緒に考えていきましょう」と言ってくれたのです。彼は、トップにレイヤーを入れてふんわりと高さを出し、分け目をぼかすようなスタイルを提案してくれました。仕上がった自分の姿を鏡で見たとき、涙が出そうになりました。あれほど悩んでいたつむじが、魔法のように目立たなくなっていたのです。帰り道、ショーウィンドウに映る自分を見て、私は何年かぶりに自然な笑顔になれました。あの日、ほんの少しの勇気を出したことで、私の世界は色鮮やかに変わったのです。