AGA治療における男性ホルモン抑制の誤解

AGA(男性型脱毛症)治療について、「男性ホルモンを抑制する治療」というイメージを持つ方がいるかもしれません。そして、それによって「男性らしさが失われるのではないか」「体に悪い影響があるのではないか」といった不安を感じる方もいるでしょう。しかし、AGA治療における男性ホルモンへのアプローチは、必ずしも「男性ホルモン全体を抑制する」というものではありません。その点を正しく理解しておくことが重要です。AGAの主な原因は、男性ホルモンであるテストステロンが、5αリダクターゼという酵素によって、より強力な脱毛作用を持つジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、このDHTが毛乳頭細胞に作用することです。AGA治療薬の代表格であるフィナステリドやデュタステリドは、この5αリダクターゼの働きを阻害することで、テストステロンからDHTへの変換を抑制します。つまり、これらの薬剤は、AGAの原因となる特定の男性ホルモンである「DHT」の生成を選択的に減らすことを目的としており、男性の健康維持に必要なテストステロンそのものの分泌量を大幅に減少させるわけではありません。テストステロンは、筋肉や骨の発達、性機能の維持、精神的な活力など、男性にとって非常に重要な役割を担っています。このテストステロンのレベルを極端に下げてしまうと、性欲減退、勃起不全、筋肉量の低下、疲労感、抑うつ気分といった、様々な望ましくない副作用が現れるリスクが高まります。AGA治療薬は、このようなテストステロン全体の抑制を目指すものではなく、あくまでAGAの進行に関わるDHTの生成をターゲットにしています。もちろん、男性ホルモンに作用する薬剤であるため、副作用として性機能に関するもの(性欲減退、勃起不全など)が報告されることはあります。しかし、これらの副作用の発現頻度はそれほど高くなく、多くは軽度で一過性であったり、服用を中止すれば改善したりするとされています。AGA治療は、「男性ホルモンを悪者扱いして全て抑制する」という単純なものではなく、「AGAの原因となる特定の男性ホルモンの作用をコントロールする」という、より精密なアプローチで行われているのです。治療を開始する前には、必ず医師から薬剤の作用機序や副作用について十分な説明を受け、正しい理解のもとで治療に臨むことが大切です。