男性ホルモンが多いとAGAになりやすい?
「男性ホルモンが多い人は、AGA(男性型脱毛症)になりやすい」という話をよく耳にしますが、これは必ずしも正確な情報ではありません。AGAの発症メカニズムは、男性ホルモンの「量」そのものよりも、男性ホルモンに対する「感受性」や「変換効率」がより重要な要素となります。確かに、AGAは男性ホルモンが関与する脱毛症ですが、そのキーとなるのは、男性ホルモンの代表格であるテストステロンそのものではなく、テストステロンが5αリダクターゼという酵素によって変換された「ジヒドロテストステロン(DHT)」という物質です。このDHTが、毛乳頭細胞にあるアンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)に結合することで、毛髪の成長を阻害し、薄毛を引き起こします。したがって、AGAになりやすいかどうかは、以下の3つの要素が大きく関わってきます。1. テストステロンの量:テストステロンはDHTの元となるため、ある程度の量は必要ですが、テストステロンの量が多ければ多いほどAGAになりやすいという単純な比例関係にはありません。2. 5αリダクターゼの活性度:この酵素の活性が高いと、テストステロンからDHTへの変換が効率良く行われるため、DHTの生成量が増え、AGAのリスクが高まります。この活性度は遺伝的要因が大きいと言われています。3. アンドロゲンレセプターの感受性:毛乳頭細胞にあるアンドロゲンレセプターが、DHTに対してどれだけ敏感に反応するかという感受性も重要です。感受性が高いと、わずかなDHTにも反応して脱毛シグナルが送られやすくなり、AGAが進行しやすくなります。この感受性も、遺伝的要因(特に母方の家系からの遺伝)が強く影響するとされています。つまり、テストステロンの量が正常範囲内であっても、5αリダクターゼの活性が高かったり、アンドロゲンレセプターの感受性が高かったりすると、AGAを発症しやすくなるのです。逆に、テストステロンの量が多くても、これらの酵素活性や受容体感受性が低ければ、AGAを発症しにくいというケースもあり得ます。テストステロンが少ないとDHTの生成も減り、AGAのリスクが低下する可能性がありますが、他の男性機能への影響も考慮する必要があります。AGAの発症は単純な「男性ホルモンが多い=AGA」の図式ではなく、複雑なメカニズムが関与しています。